2007年4月アーカイブ

産科フィスチュラとは


出産時に、医師の介入(典型的には、帝王切開)が必要とされる難産が続くとき、産道の壁に、胎児の頭が当たり、細胞を破壊するに至ることがあります。その結果、赤ちゃんは、通常死産に終わり、膀胱や大腸に孔が開きます。途上国型のフィスチュラは、尿漏れ、糞漏れが、女性を大変惨めな状態に落とし込みます。


産婦人科医の西丈則先生に、専門的な説明を頂戴したものをご紹介します。


1.産科フィスチュラとは?

産科フィスチュラとは、分娩に関連し発生した女性生殖器と隣接臓器や皮膚との間に連続性に生じた穴(瘻孔;ろうこう:フィスチュラ)のことをいいます。この瘻孔には膀胱腟瘻、尿管腟瘻、尿道腟瘻、直腸腟瘻、子宮腟瘻、子宮直腸瘻、会陰腟瘻などがあります。

2.どうしてなるの?

分娩時の児頭などで腟壁が長時間圧迫されることにより虚血性壊死がおこり、また手術的過誤により、腟と隣接する臓器の間に瘻孔(フィスチュラ)が生じることがあります。産科フィスチュラは、国や地域、あるいは時代により瘻孔の発生頻度が大きく異なります。一般的には発展途上国に多くみられ、かつ重症の症例が多いのが特徴です。
a: 発展途上国:分娩外傷による膀胱腟瘻、直腸腟瘻
b: 先進国:分娩外傷による腟会陰裂傷

3.症状は?

瘻孔のできた部位により異なります。
a: 腟と尿路系: 腟からの尿の不随意な漏れ(尿失禁)を自覚します。しかし帯下(おりもの)の増加と自覚され、発見が遅れることもあります。
b: 腟と消化器系: 腟からガスあるいは便の付随意な漏れ(便失禁)を自覚します。

4.医療行為としての予防と治療は?

予防:長時間にわたる分娩を避けるべく適切な時期の分娩介入が必要となります。また分娩後の会陰裂傷の程度を正確に診断し、修復することが大切です。 
治療:手術的治療が必要になります。瘻孔の位置、程度(大きさ、炎症の有無)により、修復術の難易度が大きく影響を受けます。そのことがまた手術の成功率、再手術の必要性あるいは入院期間にも大きく左右します。

5.日本における類似した問題は?

分娩は骨盤底に与える影響が大きく、瘻孔という重症な合併症のみならず、分娩直後あるいは分娩後数ヶ月から数十年経過してから発症する疾患もあります。それらには、子宮の下垂や脱、尿失禁(尿漏れ)、膀胱瘤、直腸瘤、腟入口部の緩みなどがあります。近年、女性骨盤底医学会が発足し、これら疾患に対応する専門の医師たちが研究や手術方法など検討しています。

6.では、どこへ相談に行けばいいのでしょうか?

一般的に本邦では1つの科ですべてのタイプの産科フィスチュラに対応している施設は少ないようです。
子宮・腟と泌尿器系との瘻孔では婦人科あるいは泌尿器科、子宮・腟と直腸・肛門との瘻孔、または会陰や肛門括約筋の断裂や裂傷では婦人科あるいは消化器外科が対応していることが多いでしょう。しかし、婦人科、泌尿器科あるいは消化器外科の医師といえどこのような疾患に不慣れな医師もおり、受診に先立って、受診先の医師に自分の状態を説明し、対応可能か否かのおおよその情報を得ておくのが良いでしょう。
また、骨盤底の弛緩による膀胱瘤、直腸瘤、子宮下垂などの疾患には、婦人科医、泌尿器科医、消化器外科医などのうち骨盤底弛緩を専門に扱っている医師がおられます。これら疾患で悩まれておられる方は、この分野に専門に対応しているかを確認をされるのが良いでしょう。 
また、フィスチュラジャパンのホームページ(http://www.fistula-japan.org/)も参考にされると良いでしょう。

6.著者の関係論文

1) 西丈則:吸引分娩に関する一技法.産婦人科治療 76(5):603-605,1998.
2) 西丈則:分娩後膣壁出血に対するumbrella pack法.産婦人科治療、8(3):260-262,1999.
3) 西丈則:境界領域としての膀胱腟瘻の手術.産婦人科治療、81(3):239-241,2000.
4) 西丈則:経腟的前腟壁側方支持欠損修復法.産婦人科治療、81(4):101-104,2000.
5) Takenori Nishi: Vesicovaginal fistula.Acta Obstet Gynecol Scand 80(5):471,2001.
6) 西丈則:腟管下垂(脱出)に対する臓側骨盤筋膜を用いた新しい腟管吊り上げ法.産婦人科治療、82(6):1062-1065,2001.
7) 西丈則:陳旧性会陰裂傷修復術 Warren flap operation.産婦人科治療、82(7):8-11,2001.
8) 西丈則:腟管上部下垂(脱出)に対する腟式修復術.産婦の進歩、54(3):199-204,2002.
9) 西丈則:私はこうしている 腟管上部下垂・脱出に対する腟管吊り上げ術.産婦人科治療、85(2):202-204,2002.
10) 西丈則:直腸瘤予防のための分娩時腟壁裂傷縫合術.産婦人科治療、85(6):698-700,2002.
11) 西丈則:腹式前腟壁側方支持欠損修復術.産婦人科治療、87(3):341-343,2003.
12) 西丈則:腟管上部下垂・脱出に対する腟管吊り上げ術(Shull法:腟管仙骨子宮靱帯固定術)の工夫.産婦の進歩、56(1):1-4,2004.
13) 西丈則:下腹部小切開による腹式paravaginal repair:膀胱瘤に対するsite specific repairの一法.日本ウロギネコロジー研究会誌、2(1):44-46,2005.
14) 西丈則:手術のための女性骨盤底機能の学び方.日本女性骨盤底医、3(1):102-106,2006.
15) 西丈則:産婦人科で遭遇する瘻孔.助産師、60(3):34-37,2006.

7.著者の勤務先連絡先
〒649-6414和歌山県紀の川市打田1282 公立那賀病院 産婦人科 西丈則

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